今回紹介する、傑作クライムアクションギャグコミック『ホテルカルフォリニア』はすぎむら作品のなかでも最も驚きに満ちた作品である。つまり、最高傑作ということである。すぎむらしんいちの最高傑作ということは、漫画史に残る大傑作ということである。もし、あなたが本当に面白い漫画を読みたいと思うならば、すぎむらしんいちの『ホテルカルフォリニア』を読めば良い。充実した数時間が待ちかまえていることを保証する。
『ホテルカルフォリニア』を読む者は、まず、毎回扉絵に驚かされる。一枚絵としての完成度が非常に高い。細部にまでこだわった、ポップでキャッチーな扉絵は、引き延ばしてポスターにしたくなるものばかりである。あなたがポップカルチャーに詳しければ引用されている元ネタにニヤリとすることもあるだろう。
ほとんどデタラメのように見えるのに、ひたすら面白いストーリーにも驚かされるだろう。北海道奥地にある開業間近のリゾートホテルという封鎖された空間を舞台にしたこの漫画のストーリーを説明するのは難しい。興味深い事件が頻発し、間違いなく面白いのだが、登場人物が多く、中心となる一人の主人公は存在せず、ストーリーはどこに向かうかさっぱりわからない。しかし、そのわからなさがまたスリリングでもある。主な登場人物を挙げるならば、以下の通りである。まったく役に立たないホテル従業員たち、大麻畑を管理する老人集団、借金取り立てにくるヤクザたち、刀を振り回す鎧武者、熊…。すぎむら本人もあまり先のことを考えずに描いていたらしく、当時の担当編集者には怒られていたらしい。しかし、いい加減なようでいて、妙に説得力がある。
そのようなストーリーと、緩急を心得たコマの運び、抜けの良い構図、独特な作画が混然一体となり、熱を保ったままエンディングまで一気に突き進んでゆく様は見事である。誰にも真似のできない、奇跡的なバランスの上に成り立っている祝祭的な漫画世界が立ち現われるのだ。なぜ、そんな芸当が可能なのか。それはすぎむらしんいちが天才だからに他ならない。
そう、すぎむらしんいちは天才なのである。雑誌『ユリイカ』2002年7月号で大友克洋と高野文子も対談ですぎむらしんいちを高く評価する旨の発言をしている。大友克洋はともかく、高野文子もすぎむらしんいちを評価しているのが興味深い。
それはさておき。残念ながら天才は同時代に必ずしも評価されるわけではない。例えば、ゴッホも同時代にはほとんど評価されなかった。すぎむらしんいちは生前のゴッホのように、まったく評価されていないというわけではない。今も商業誌で活躍し続けている。しかし『ホテルカルフォリニア』は現在絶版である。『ホテルカルフォリニア』と同格の傑作である『東京プー』もやはり絶版である。天才作家に対してあんまりな仕打ちだ。
絶版ゆえ、若干入手しにくいかもしれないが、まずは『ホテルカルフォリニア』を読んでみることをお勧めする。
[Reported by トミー宇田川]



